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【帯広刑務所編】看守のアダ名は「バネット」「サメ」に「毒まんじゅう」——悪名高いヤツほどいいヤツだったり《懲役合計21年2カ月》

凶悪で愉快な塀の中の住人たちVol.13


 元ヤクザでクリスチャン、今建設現場の「墨出し職人」さかはらじんが描く懲役合計21年2カ月の《生き直し》人生録。カタギに戻り10年あまり、罪の代償としての罰を受けてもなお、世間の差別・辛酸ももちろん舐め、信仰で回心した思いを最新刊著作『塀の中はワンダーランド』で著しました実刑2年2カ月!
 帯広刑務所生活では、看守たちも個性的。じんさん、人間の観察眼も深く鋭くなっていきました。人は見かけに寄らぬもの。悪名高いヤツらほど味わい深い人情派。そんなオヤジのアダ名は「毒まんじゅう」・・・。


■「バネット」「サメ」に「毒まんじゅう」

さかはらじん
イラスト:さかはらじん

 

 塀の中も年末が近づいてくると、のど自慢大会クリスマス正月といった、待ち望んでいた恒例行事がいくつも控えていることから、受刑者たちの心はどこか浮き立つように活気づく。

 この頃のボクは四級から三級へと累進し、それまで胸に着けていた白色の四級バッジが外され、代わりに緑色の三級バッジが着いていた。バッジの色が変わると、途端に、ボクの中で何かがキリリッと引き締まってくるような、そう、責任感のようなものが芽生えてくるから不思議だった。

 ボクは機械場で相変わらず、「相棒」であるポンコツ野郎の顔色を窺いながら、仕事をしていた。

 表では大きなボタン雪が空間の密度を濃くしながら、音もなく深々と降り続いている。大きな窓に映るその情景は、あたかも大きなスクリーンに映し出されたサイレント映画のように美しかった。

 そういえば、昔、積もった雪を見て、「親分見てください。表はシャブでいっぱいです。金儲けできます」と言った知り合いは、次の日から運転手をお払い箱になり、永久にお暇を出されてしまった。ボクは雪を見ると、そんな阿呆なヤツのことを思い出す。

 ボクは間断なく舞い降り続ける表の雪片に目を遣り、ぼんやりと、東京の家族のことに思いを馳せ始めた。

 すると、防寒着で装備した仮釈放部隊の一団が、箒やスコップを肩に担いで雪の中を「イッチニ!イッチニ!」と歩調をとりながら行進して行くのが見えた。そしてそのあとを、事故にでも遭って首が曲がってしまったのか、それとも趣味で曲げているのか、本人に訊かなければわからないが、受刑者たちから「バネット」というあだ名を付けられた看守が短い足をせかせかと動かして通り過ぎていった。

 この「バネット」の由来は、同名歯ブラシの柄の部分が、担当の曲がった首と同じ形をしていることから付けられた、ユニークにして言い得て妙な仇名だった。受刑者たちがからかって仇名を言ったりすると、「誰が言った!」と、顔を真っ赤にして怒る。そのくせ、首はいつも曲がったままだった。ときどき、そのバネットの首が真っ直ぐになって歩いている珍しい姿を見ることがある。

 おっ、今日は真っ直ぐじゃねぇか。などと思って見ていると、徐々に曲がっていき、終にはコクンと折れてしまうところを、タイミングよくボクたちに披露してくれるのだった。
 そんなバネットを見て、あぁ、やっぱし曲がりゃあがった、なんて、思ったりしていたのである。

 そんな仇名をつけて喜ぶ塀の中の住人たちには、悪戯好きな洒落モンが多かった。この先、新しく代わる区長につけられた仇名は「サメ」だった。顔も何となくサメに似ているが、工場の中を一匹、いや一人、「スーッ」と音もなく、悠然と泳ぐようにして巡回してくるその姿は、見事に的を射ていた。

 仇名は人や物事の欠点や弱点などを突いて、おもしろおかしくつけられることが多い。格好のいい仇名であればいいが、そうでなければ悲惨である。看守たちの間でも、仇名を付けられて一人前という風潮があり、格好いい仇名を付けられたがってもいるのだ。

次のページ人は見かけに寄らぬもの——食わず嫌いは「毒まんじゅう」

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 2020年5月27日『塀の中のワンダーランド』
全国書店にて発売!

 新規連載がはじまりました!《元》ヤクザでキリスト教徒《現》建設現場の「墨出し職人」さかはらじんの《生き直し》人生録。「セーラー服と機関銃」ではありません!「塀の中の懲りない面々」ではありません!!「塀の中」滞在時間としては人生の約3分の1。ハンパなく、スケールが大きいかもしれません。

 絶望もがむしゃらに突き抜けた時、見えた希望の光!

 「ヤクザとキリスト〜塀の中はワンダーランド〜」です。

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さかはら じん

さかはら じん

1954年生まれ(本名:坂原仁基)、魚座・O型。埼玉県本庄市生まれの東京育ち。幼年 期に母を亡くし、兄と二人の生活で極度の貧困のため小学校1カ月で中退。8歳で父親に 引き取られるも、10歳で継母と決裂。素行の悪さから教護院へ。17歳で傷害・窃盗事件を 起こし横浜・練馬鑑別所。20歳で渡米。ニューヨークのステーキハウスで修行。帰国後、 22歳で覚せい剤所持で逮捕。23歳で父親への積年の恨みから殺害を実行するが、失敗。 銃刀法、覚せい剤使用で中野・府中刑務所でデビューを飾る。28歳出所後、再び覚せい剤 使用で府中刑務所に逆戻り。29歳、本格的にヤクザ道へ突入。以後、府中・新潟・帯広・神戸・ 札幌刑務所の常連として累計20年の「監獄」暮らし。人生54年目、獄中で自分の人生と向き合う不思議な啓示を受け、出所後、キリスト教の教えと出逢う。回心なのか、自分の生き方を悔い改める体験を受ける。現在、ヤクザな生き方を離れ、建築現場の墨出し職人として働く。人は非常事態に弱い。でもボクはその非常事態の中で生き抜いてきた。

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  • さかはらじん
  • 2020.05.27